「うれしいひなまつり」の歌詞は、実は怖い話が隠れている。そんな噂をSNSやテレビで見かけて、本当かどうか確かめにこのページへ来た人も多いはずです。
調べてみると、「怖い」と言われる中身は、実は性質の違う3つの話が混ざっていました。歌詞の「間違い」、作詞者サトウハチローの家庭の事情、そして替え歌が広めてしまった怖いイメージです。
3つとも中身はまったく別物なんですよ。
この記事では、一般社団法人日本人形協会の解説、サトウハチロー記念館の館長で次男の佐藤四郎氏の証言、朝日新聞や読売新聞の記事まで当たって、噂を1つずつ裁定しました。世間では「間違いは3つ」と言われていますが、実際にはっきり誤りと言い切れるのは1か所だけです。5番が本当にあるのかどうかも、この先で確かめます。
子どもに「怖い歌なの?」と聞かれたときに、そのまま使える答え方まで用意しました。
ひな祭りの歌詞が怖いと言われる3つの入り口
「ひな祭りの歌詞が怖い」と言われる理由は、歌詞の意味そのものにあるのではありません。実は中身の違う3つの噂が混ざって、1つの「怖い話」に見えているだけです。
歌詞の「間違い」が広まった経緯
ネットの雑学記事やテレビのクイズコーナーでは、「うれしいひなまつり」は「間違いだらけの童謡」として繰り返し取り上げられてきました。どこがどう間違っているのかまで踏み込んで整理している記事は少なく、「間違いがある」という印象だけが先に広まっています。この裁定は、このあとの章で1つずつ行います。
作詞者サトウハチローの家庭事情と結びつけた読み方
歌詞の切なさを、作詞者サトウハチローの家庭の事情と結びつけて読む解釈も広まっています。「亡き姉へのレクイエムだ」という説で、この真偽はのちほど扱います。
「あかりをつけましょ爆弾に」型の替え歌が残した印象
戦後、子どもたちの間では「あかりをつけましょ爆弾に」のような替え歌が広く歌い継がれてきました。実は1944年1月には、キングレコードが加藤省吾作詞による別の歌詞のレコードを発売したことがあります。無断の改作にサトウハチローが激怒し、発売はすぐに停止されました(Wikipedia「うれしいひなまつり」)。替え歌の物騒な響きが、原曲そのものの印象まで塗り替えてしまった面があります。
ひな祭りの歌『うれしいひなまつり』の基本データ
「うれしいひなまつり」は、1936年(昭和11年)に発表された曲です。
上位の記事があまり書いていない基本データを、ここで先に固めておきます。
作詞・作曲・発表年とレコード初出
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表 | 1936年(昭和11年)2月20日、ポリドール・レコード(レコード題「嬉しい雛まつり」) |
| 歌 | 河村順子 |
| 作詞 | サトウハチロー(本名 佐藤八郎、1903-1973) |
| 作曲 | 河村光陽(本名 河村直則) |
| 番数 | 全4番(5番は存在しません) |
歌詞そのものを読みたい場合は、JOYSOUNDなど許諾を受けた歌詞サイトで確認できます。
全4番の構成と、それぞれの番が描く場面
「うれしいひなまつり」は全4番で構成されています。1番はぼんぼりと桃の花で祭りが始まる場面、2番は内裏雛と官女が飾られた雛壇の様子、3番は金屏風と白酒が並ぶ場面、4番は晴れ着を着た「わたし」自身の喜びが歌われます。4番が「わたし」の一人称で締めくくられているのがポイントで、この構造が次の章の「5番が無い理由」に直結します。
ひな祭りの歌詞に5番が存在しない理由
5番は存在しません。楽譜や歌本にも4番までしか載っていません。
「5番がある」という噂の出どころ
五人囃子や五節句など、ひな祭りには「5」という数字がよく登場します。この連想から「隠された5番がある」という都市伝説が広まったと考えられます。ネット上には5番として出回っている創作の歌詞もありますが、公式に発表された歌詞ではありません。
うれしいひなまつりが4番で完結している理由
前の章で見たとおり、4番は晴れ着を着た「わたし」の喜びで話が閉じています。祭りの朝の情景から始まり、本人の喜びまでで一区切りがつく構造なので、5番へ続く必要がありません。
ひな祭りの歌詞の「間違い」3点の裁定
世間では「うれしいひなまつり」の歌詞に間違いが3つあると言われています。
1つずつ調べたところ、誤りと言えるのは1点だけでした。
| 言われていること | 判定と根拠 |
|---|---|
| 「お内裏様とお雛様」は間違い | △ どちらとも言えない。内裏雛は本来、上段の男女一対を指す言葉です。ただし歌詞自体は男女ふたりを並べて歌っているので、歌をきっかけに世間の呼び方のほうがずれた可能性があります(日本人形協会)。 |
| 「赤いお顔の右大臣」は間違い | ○ 誤りです。装束が黒袍と赤袍の場合は向かって右を黒袍とし、同色なら年長者を向かって右に置くのが決まりです(日本人形協会)。赤い装束なのは向かって左の若い随身なので、赤ら顔と赤い装束を取り違えたと考えられます。 |
| 「お嫁にいらした姉様」は誤用 | × 誤りとは言い切れません。「いらっしゃる」は「行く」「来る」「居る」の尊敬語なので、「お嫁に行かれた」という意味で読めます。国語辞典もこれを誤用としていません。 |
「お内裏様とお雛様」は男女一対の呼び方
本来、「内裏雛」は雛壇の上段に並ぶ男女一対を指す言葉です。男雛だけを「お内裏様」と呼ぶ用法は、この言葉の本来の意味からはずれています(一般社団法人日本人形協会)。歌詞そのものは「お内裏様とお雛様」と男女ふたりを並べて歌っているので、この歌をきっかけに世間の呼び方のほうがずれていったと考えるのが自然です。
「赤いお顔の右大臣」は向かって右の随身との取り違え

日本人形協会は、随身の装束について「左大臣・右大臣はあくまでも俗称」であり、「装束が黒袍と赤袍の場合は向かって右を黒袍とし、同色の場合は敬老の意味から年長者を向かって右に置く」と説明しています。赤い装束をまとっているのは、向かって左に立つ若い随身のほうです。「赤いお顔の右大臣」という歌詞は、赤ら顔と赤い装束を取り違えた可能性が高く、3点のうちここだけが明確な誤りと言えます。
つむぎ所長赤い服のほうが年上に見えそうな気がしていたので、老人を敬って向かって右に置くという決まりを知ったときは、へえ、と声が出ました
「お嫁にいらした姉様」は誤用と言い切れない理由
「いらっしゃる」は「行く」「来る」「居る」の3つを表せる尊敬語です。国語辞典を確認しても、「お嫁にいらした」を「お嫁に行かれた」という意味で読むこと自体は、誤用として載っていません。
誤用だと言い切っているのは、主にネット上の記事です。辞書という一次に近い資料の側は、この読み方を否定していません。
「お嫁にいらした」を誤りと決めつける前に、辞書の「いらっしゃる」の項目を確認しておくと、噂に振り回されずに済みます。3点のうち、ここがいちばん他の記事と差がつくところです。
ひな祭りの歌詞と作詞者サトウハチローをめぐる2つの説
「怖い」という噂の中心には、作詞者サトウハチローの家庭の事情があります。
ここには、誰の言葉かが異なる2つの話が混ざっています。
| 説 | 内容と出どころ |
|---|---|
| 亡き姉へのレクイエム説 | 嫁ぎ先が決まった矢先に18歳で亡くなった姉を歌ったという解釈です(読売新聞文化部『唱歌・童謡ものがたり』)。【伝承・諸説】として扱います。 |
| 娘たちのために買った雛人形という証言 | 次男でサトウハチロー記念館館長の佐藤四郎氏が、離婚後に引き取った娘たちのため最初のひな祭りに人形を買ったと証言しています(オトナンサー2019-03-01)。 |
| ハチロー自身がこの歌を嫌っていた理由 | 「自分の作品の中で一番嫌い」という言葉を、佐藤四郎氏が伝えています(朝日新聞2012-03-03)。 |
「亡き姉へのレクイエム」説の出どころ
この歌にまつわる説の中でも、特に広く知られているのが「亡き姉へのレクイエム」という読み方です。歌詞の切なさを、作詞者の家族の出来事に結びつけて読む解釈です。
この解釈がどこから来ているのか、出典まで確かめました。
遺族が語る、娘たちのために買った雛人形
次男でサトウハチロー記念館(岩手県北上市)館長の佐藤四郎氏は、取材に対して「おやじが姉たちを引き取った後の最初のひな祭りのとき、実母から離れた姉たちのためにひな人形を買った」と語っています(オトナンサー2019-03-01)。ここでの「姉たち」は、四郎氏から見た姉、つまりハチローの娘たちを指します。
歌が生まれた直接のきっかけは、離婚後に引き取った娘たちのために買った雛人形だった、という証言です。上の書籍による解釈とは、別の話として並べておきます。
ハチロー自身がこの歌を嫌っていた理由
佐藤四郎氏は、ハチローが「自分の作品の中で一番嫌い」「できることなら、この歌を捨ててしまいたい」と語っていたと証言しています(朝日新聞2012年3月3日)。テレビでこの歌が流れると、不機嫌になったという話も伝えられています。
四郎氏によれば、その理由は歌が怖いからではありません。「人形のことを百貨店の親しい人に聞いて、その説明をうのみにした」まま歌が大流行してしまい、間違いを直せなくなったことへの後悔だったといいます。
ひな祭りの歌が怖く聞こえる音の理由
歌詞の内容ではなく、旋律の側に「怖い」の正体があります。
短調とヨナ抜き音階の組み合わせ
題名も歌詞も明るいのに、西洋音楽の分類で言えばこの曲は短調にあたります。日本の唱歌によく使われるヨナ抜き音階(4番目と7番目の音を使わない音階)で短調を組み立てているため、お祝いの歌なのにどこか厳かで、しんとした響きになります。
明るい歌詞と暗い旋律のずれ
言葉は明るく、音は物悲しい。このずれが、「怖い」「悲しい」という言葉にしづらい感覚を生んでいます。「ひな祭りの歌 悲しい」という検索が生まれるのも、このずれが理由だと考えられます。
ひな祭りの歌詞の背景にある形代(かたしろ)の文化
歌の話から少し離れると、ひな祭りという行事そのものが「厄を移して流す」ところから始まっています。人形にどこか怖さを感じる感覚の出どころは、心霊的な話ではなく、この文化の成り立ちにあります。
上巳の節句と流し雛の関係
ひな祭りのもとをたどると、行事そのものの成り立ちに行き着きます。
雛人形が「身代わり」と呼ばれてきた理由
人形は、子どもに降りかかる災いを代わりに引き受けるものとして扱われてきました。日本の暦の行事は、季節の変わり目に厄を祓うための節目として続いてきたものが多く、この感覚は他の行事にも通じます。土用のスピリチュアルな意味と過ごし方でも、季節の節目と厄祓いの関係を扱っています。
子どもに「ひな祭りの歌詞は怖いの?」と聞かれたときの答え方
答え方は年齢によって変えられます。
未就学児には感じ方を認める言葉、小学生には事実を1つ、中高生以上には作詞者の背景まで渡せます。年齢別の目安を用意しました。
| 相手 | こう答える |
|---|---|
| 未就学児 | 「音がちょっとしずかだからだね」と、感じ方をそのまま認める |
| 小学生 | 間違いは1か所だけだと、事実として教えてしまう |
| 中高生以上 | 作詞者の背景まで含めて渡せる |
怖いと聞かれたときの、年齢別の答え方
未就学児には、音がしずかに感じられることをそのまま認めてあげるところから答えます。
小学生には、間違いが1か所あることを前の章の裁定のまま事実として伝えるほうが、早く納得してもらえます。
中高生以上には、作詞者サトウハチローの背景まで含めて渡せます。
怖い話として広めない伝え方
「怖い歌じゃないよ」の一言で終わらせるより、何が本当で何が噂かを1つ渡す形のほうが伝わります。
赤い装束なのは向かって左の随身だという事実を渡しておくと、子どもが友達に話したくなる知識に置き換わり、怖い噂の代わりに事実のほうが広まります。
ひな祭りに流す曲の選び方
怖さが気になる場合でも、まずは原曲のまま歌うのがいちばん素直です。
うれしいひなまつりを原曲のまま歌う選択
これまで見てきたとおり、歌詞の誤りは1か所だけで、作詞者の背景も怖い話ではありません。事情を知ったうえで、原曲のまま歌うのがいちばん自然な選び方です。
明るいアレンジ・別の春の歌という選択肢
短調の響きがどうしても気になる場合は、テンポの速いアレンジ版や合唱アレンジという手もあります。小さな子どもが集まる場では、ほかの春の童謡と組み合わせる選び方もできます。気になる音源は、実際に聴いてからイメージに合うかを確かめると失敗がありません。
つむぎ所長短調でも、じゅうぶんかわいらしい曲だと思います。個人的には、原曲のままのほうが好みです
ひな祭りの歌詞が怖い理由のまとめ
「ひな祭りの歌詞が怖い」という噂の中身を、1つずつ確かめてきました。
- 歌詞の間違いは、3点のうち1点だけ(「赤いお顔の右大臣」)
- 5番は存在しません。4番で話が完結する構造になっています
- 作詞者サトウハチローがこの歌を嫌っていたのは、歌が怖いからではなく、間違いを直せないまま国民的な歌になってしまったからです
- 人形にどこか感じる怖さの出どころは、形代という文化の成り立ちにあります

※この記事の情報は2026年8月30日時点のものです。
