「神社のはしごって、よくないらしいよ」。
友人や家族に、そんなふうに言われたことはありませんか。
自分では楽しくて何社も参拝していたのに、横からその一言をもらった途端、さっきまでの時間が急に後ろめたく感じられてしまう。そんな経験をした方は、決して少なくないはずです。
ウェザーニュースが2018年12月20日、初詣の参拝先について9,151人に尋ねた調査があります。「1か所のみ」と答えた人が31.7%だったのに対し、「何か所でもOK」と答えた人は68.3%でした。複数の神社を回る人のほうが、実は多数派だったんです。「よくない」という話は、世間の常識というより、一部で流通している言説に近いのかもしれません。
この記事では、その「よくない」の正体を、神社本庁や実在の神社が公式に示している内容だけを頼りに確かめていきます。噂を1つずつ検証し、誰が何と答えているかを実名で示します。
友人の一言に、なんとなくの感覚ではなく、確かな筋の話で応えられる状態を目指します。
神社のはしごがよくないと言われる理由と裏付けの有無
神社のはしごがよくないと言われる理由は、主に7つに整理できます。そのうち確かな裏付けがあるのは2つだけで、出どころのはっきりしない話が4つ、体力・安全面の負担のように信仰とは別の性質の話が1つという内訳です。
「よくないらしいよ」と言われても、具体的に何がよくないのかまでは教えてもらえないことが多いはずです。まずは、実際に流通している言い分を7つに分解し、それぞれどれくらい裏が取れる話なのかを一覧にしました。

自分が友人に言われた噂がこの中のどれに当たるか、まずはこの表で照らし合わせてみてください。それぞれの中身は、このあとの見出しで1つずつ確かめていきます。
神社のはしごが「よくない」と言われる7つの理由
流通している言い分は、①神様同士が喧嘩する ②気が混ざる・エネルギーが相殺される ③浮気とみなされる ④願いが分散して薄まる ⑤数をこなすと参拝が雑になる ⑥忌中は控えるべき ⑦体力や安全面の負担、の7つです。
このうち裏付けが取れたのは⑤と⑥だけです。①〜④は、神社本庁や実在の神社の記述をあたっても、裏付ける記載が見つかりませんでした。
「神様同士が喧嘩する」という言い伝えの出どころ
この説は、神社側の文献ではなく、口伝やネット上の説明で広まったものです。神社本庁も、実在の神社の公式サイトも、そろって「怒らない」「問題ない」と答えています(詳しくは次の章で出典つきで紹介します)。
「気が混ざる」「エネルギーが相殺される」説の扱い
この言い回しは、個人のブログやまとめサイトでよく見かけますが、神社本庁や各都道府県の神社庁、神社の公式サイトのいずれにも、同じ趣旨の記述は見当たりませんでした。
誰がいつからそう言い始めたのかという典拠を示している書き手も見つからないため、【伝承・諸説】として距離を置いて扱うのが正確な位置づけです。確かめられる筋の話としては扱えない、というのがここでの答えになります。
友人や家族に「よくない」と言われたときの受け止め方
相手が嘘をついているわけではなく、出どころのはっきりしない話が世の中に広く流通しているだけです。そう捉えれば、肩の力を抜いて読み進められます。
「よくないらしいよ」という一言は、多くの場合、誰か別の人から聞いた話をそのまま伝えているだけで、相手自身が調べて確かめた情報とは限りません。伝言が重なるうちに、【伝承・諸説】の話が確定した事実のように聞こえてしまうことは、神社に限らずよくあることです。次の章では、名前のある発信元がどう答えているかを見ていきます。
神社本庁と神社公式が示す複数参拝への回答
神社本庁と実在の神社は、複数の神社を参拝することについて、それぞれ公式に答えを示しています。禁じる記述は見当たりませんでした。
神社本庁がお守りの複数持ちに答えた一文
神社本庁教化広報センターは、お守りを複数持つことについて取材に「神様同士がケンカするということはない」と考えてよいと回答しています(J-CASTトレンド、2019年1月2日公開)。
質問はお守りについてのものですが、「神様同士が喧嘩しない」という判断そのものは、複数の神社を参拝する不安にもそのまま当てはまります。同じ回答の中では「たくさん持っていれば大丈夫、というものでもない」とも述べられていて、数に頼る考え方への釘刺しも添えられています。この点は、あとの章で改めて触れます。
神社本庁は、全国の神社を包括する宗教法人で、伊勢神宮を本宗としています。神社本庁に属さない単立神社との違いについては、神社本庁に属さない神社一覧の記事で詳しく整理しています。
神田明神の権禰宜が答えたハシゴの可否
「神社めぐりでハシゴしてもいい?」という問いに、神田明神の権禰宜(ごんねぎ)、加藤さんが「複数の神社をめぐっても怒りをかうことはなし」と答えています(ESSE online)。
実名・肩書きのある現役の神職が、ハシゴという言葉そのものを使った質問に直接答えている点で、このコメントは重みがあります。加藤さんは続けて、日本では八百万の神といわれるほど多くの神様が祀られているものだと、理由も添えています。
神棚に三社のお神札を並べる作法が示すもの
神社本庁「お神札のまつり方」は、三社造りの神棚について、3社のお神札を並べてまつるよう案内しています。中央に神宮大麻(伊勢神宮のお神札)、向かって右に氏神さま、向かって左に崇敬している神社のお神札という並びです。
これは、神棚の中に最初から3つの神社を同時にまつることが、正式な作法だと示しているということです。さらに同じページには「神社におまいりをされた際に受けたお神札は、向かって左におまつりした崇敬神社のお神札の後ろに重ねてお納めするとよいでしょう」とあり、社数が増えていくことを前提にした説明が続きます。
神様同士が喧嘩するのだとしたら、この作法そのものが成り立ちません。1日に複数の神社を回ることより先に、家の中で毎日、複数の神社のお神札を同時におまつりすることが、神社本庁の案内する正式な形として存在しているんです。
三社参り・二社参りという地域の風習
福岡を中心とした九州・中国地方の一部には、正月に3か所の神社を回る「三社参り」という風習が根づいています。
江戸時代の福岡藩で、藩内の神社を巡る風習があったことが、この風習の背景とされています。
ウェザーニュースの調査でも、三社参りや七福神めぐりが紹介されていて、複数の社寺を掛け持ちで回る参拝は、一部地域では正月の正式な行事として今も続いています。
神社のはしごを禁じるどころか、地域によっては年中行事として組み込まれているわけです。
つむぎ所長いつか、三社参りをしてみたいんです。1日で3つの神社を回るなんて、お正月らしくて特別な感じがして
同じ神社・違う神社・同じ日・別の日|4つの組み合わせ別の可否
違う神社と同じ神社、同じ日と別の日という組み合わせで見ても、複数参拝を禁じる決まりはどこにも見当たりませんでした。
読者が自分のケースをすぐに確認できるよう、4つの組み合わせを1つずつ答えていきます。

自分のケースに近い象限を見つけたら、そのまま次の見出しで理由を確認してください。
違う神社を同じ日に2社回るときの答え
最も多いケースが、違う神社を同じ日に掛け持ちで2社以上回るパターンです。冒頭で触れた「神社のはしごはよくないらしいよ」という一言も、たいていはこの形を指しています。前の章で見た神社本庁・神田明神の回答は、いずれもこの形の参拝を問題視していません。図解の「違う神社×同じ日」の欄がこのケースにあたり、控える理由は確認できませんでした。
同じ神社へ1日2回・2日連続で行くときの答え
回数の上限を定めた規定は、同じ神社へ1日2回、あるいは2日連続で参拝する場合にも見当たりませんでした。
1回目と2回目で、同じ願いを重ねて頼み直すのではなく、無事にお参りできたことへの感謝を伝える形に切り替えると、参拝の意味が重複しません。何度訪れても、そのつど手を合わせる理由があるなら、自然なことです。
神社とお寺を同じ日にお参りする際の考え方
神社とお寺を同じ日に参拝しても、問題視する公式な記述は見つかりませんでした。
明治の神仏分離令が出るまで、神社とお寺は同じ境内にあることが普通でした。神仏習合と呼ばれるこの状態が、日本の宗教文化では長く一般的だったんです。頭之宮四方神社(三重県)の公式サイトは「基本的に、複数の神社やお寺を参拝することに、問題はありません」「神様も仏様もそんなことでは怒りません」と明言しています。作法の違いとしては、お寺では柏手を打たず、静かに手を合わせる点だけ覚えておくとスムーズです。
稲荷神社のはしごをめぐる噂の検証
稲荷神社を複数回参拝する行為を問題視する公式な記述も、見当たりませんでした。「一度お参りを始めたら通い続けないといけない」「途中でやめると良くない」という話が広く流通していますが、神社の公式な記述にその根拠は見当たりません。
稲荷神社そのものは、他の神社と同じように参拝してよい存在です。稲荷神社に伝わる祝詞について知りたい方は、稲荷祝詞の全文の記事もどうぞ。
縁切り神社を複数回るときの考え方
縁切りの神社を複数回訪れること自体を禁じる記述は、見当たらないというのがここでの答えです。
気をつけたいのは回数ではなく、願い事の中身です。特定の相手への呪詛のような形にせず、自分自身が悪縁から離れたいという願いとして手を合わせる形なら、複数の縁切り神社を訪ねること自体に問題はありません。縁切りのお守りについては、安井金比羅宮のお守り完全ガイドでも紹介しています。
神社のはしごで本当に気をつけたい3つのこと
ここまでで、複数の神社を参拝すること自体は問題ないと分かりました。ここからは、はしごのマナーというより、参拝の質を上げるために気をつけたい3つのことを紹介します。
一社ごとに時間を確保する組み立て
気をつけたいのは、数をこなすことそのものではなく、鳥居で一礼し、参道を歩き、手水(ちょうず)で心身を清め、拝殿で二礼二拍手一礼を行うという一連の流れが省略されてしまうことです。
神社本庁の回答にもあったとおり「たくさん参拝すれば大丈夫」という数に頼る考え方は望ましくないとされています。1社あたり何分かけるべきという具体的な数字は、神社本庁にも各神社庁にも記載が見当たらないため、数字に頼らない目安を後ほどの章で紹介します。
御朱印を参拝の後に受ける理由
御朱印は、参拝の後に受けるものです。神社本庁は御朱印を「神社参拝した証としていただく」ものと説明しています。証である以上、参拝が先という順序になります。
御朱印という呼び方が使われ始めたのは、実は比較的最近のことです。神社本庁によると、明治以降の鉄道網の整備によって寺社巡りが流行し、「御朱印」という呼称は昭和10年頃から使われるようになったとされています。複数の神社を巡る参拝そのものは、決して新しい行動ではなく、鉄道が整備された時代からすでに広まっていた楽しみ方だったわけです。
おみくじを何度も引くことへの考え方
おみくじを何度も引くこと自体を禁じる規定も見当たりませんでした。
考え方として整理しておきたいのは、良い結果が出るまで同じ神社で何度も引き直す使い方と、参拝した社ごとに1回ずついただく使い方は、性質が違うということです。神社をはしごする中でおみくじを楽しみたいなら、社ごとに1回という形が、はしごの趣旨に馴染みます。
神社巡りの趣味が「危ない」と言われる正体
「神社巡りの趣味は危ない」「行き過ぎるとよくない」という言葉の中身を分解すると、確かめられる話と、出どころのない話が混ざっています。
霊的な危険説と、実際に多い山道・体力の問題
「霊的な影響を受ける」という説明には、裏付けとなる典拠が見当たりませんでした。この記事では【伝承・諸説】の域を出ない話として距離を置きます。
一方で、確かめられる負担は実際にあります。山の中腹にある社や、長い石段、夏場の炎天下での巡拝などは、単純に体力を使う行動です。動きやすい靴を選ぶ、水分を持参する、暑い時期は時間帯をずらすといった、旅先での基本的な備えを意識しておくと安心です。
「歓迎されていないサイン」の中身
雨が降る、気分が悪くなる、道に迷うといった出来事を「歓迎されていないサイン」と説明する話が広く流通していますが、これは神社の公式な見解ではなく、個人の解釈や体験談から広まった話です。
急に雨が降ると「歓迎されていないのかな」と思う気持ちは、分かる気もするんです。ただ、天気予報が外れただけということも、当然あります。
つむぎ所長雨に降られると『歓迎されてないのかな』ってちょっと思っちゃうんですけど、傘を忘れただけかもしれません
この記事では、出来事の意味づけは【伝承・諸説】として距離を置いて紹介するにとどめます。
神社へ行き過ぎることの是非
参拝の頻度に上限を定めた規定は、神社本庁にも各神社庁にも見当たりませんでした。
氏神さまは、日々の挨拶として通うことが前提の身近な存在です。「行き過ぎ」という物差し自体、神社側から示されたものではなく、外側から当てはめられた基準だと考えると、気持ちが楽になるかもしれません。ただし、生活が回らなくなるほど時間や費用をつぎ込む場合は、信仰の話ではなく生活設計の話として、一度立ち止まって考える価値があります。
神社参拝を控える唯一の期間|忌中の50日間
この記事の中で、唯一「控えてください」と言い切れるのが、忌中の期間です。
忌中と喪中の違いと、参拝を再開できる時期
忌中は約50日間(五十日祭まで)で、この間は神社参拝を控えます。喪中は忌明け後にあたる期間なので、参拝してよい期間です。
福岡県神社庁のよくある質問も同趣旨で、忌中は約50日間、忌明け後は参拝できると案内しています。
この2つが混同されて「1年間ずっと控えるべき」と誤解されているケースが目立ちますが、忌と喪は別の期間として区別して考えます。
神社本庁が示す忌の期間と神棚の扱い
神社本庁「服忌について」は、特に慣例がない場合、五十日祭までを「忌」の期間とし、この間は神社の参拝も家庭のおまつりも控えるとしています。
戦前の服忌令(ふっきれい)では、父母を亡くした場合がもっとも長く、忌50日・服13か月と定められていました。現在の忌中の目安である50日間は、この歴史的な区切りを踏まえたものです。神棚には、この期間だけ白い半紙を貼って扉を閉じる扱いが一般的です。
参拝の時間帯や、行ってはいけないとされる日が気になる方は、神社の参拝時間の記事でまとめて確認できます。
神社のはしごを気持ちよく終えるための組み立て方
神社のはしごに、決まった正解のルートはありません。ここでは、次の休みの計画を立てやすくするための考え方を紹介します。
参拝の順番をめぐる決まりの有無
氏神さまが先、格の高い神社が先といった、参拝の順番を定めた公的な決まりは見当たりませんでした。
神棚に氏神さまと崇敬神社を両方まつるという考え方(前の章で紹介した三社造りの作法)を踏まえると、身近な氏神さまから回り始めると、気持ちの流れとして自然です。ただしこれは決まりではなく、あくまで提案の1つです。境内の摂社・末社を回る順序についても、本殿を先に参拝するという以上の断定できる決まりは見当たりませんでした。
1日に回る社数の目安の立て方
「1日に何社まで」という上限を示す公的な記載は、神社本庁にも各神社庁にも見当たりませんでした。
数字の代わりに、自分で判断できる3つの物差しを持っておくと、はしごの終えどきが見えてきます。
- 鳥居から拝殿までを省略せず終えられるか
- 移動と待ち時間を引いて時間が足りるか
- 御朱印の授与時間に間に合うか
この3つを基準にすると、省略が始まったらそこで打ち止めという判断ができます。数を追いかけるより、この判断のほうが、はしごの満足度を左右します。
複数の神社のお守りを持ち帰った後の扱い
複数の神社のお守りを持ち帰っても、問題ないことはすでに触れたとおりです。持ち方や保管の具体的な手順は、お守りの持ち歩き方の記事にまとめています。
まとめ|神社のはしごへの答えと、覚えておきたい3点
神社のはしごは、よくない行為ではありません。ここまで確かめてきた内容を、3点にまとめます。
- 神様は喧嘩しません。神社本庁と、神田明神の現役神職がそれぞれ実名で明言しています
- 家の神棚は、三社のお神札を同時にまつるのが神社本庁の示す正式な作法です。複数の神社と関わることは、もともと日常の一部として想定されています
- 控えたほうがよいのは、忌中の約50日間だけです。それ以外の期間で、複数参拝を禁じる公的な記述は見当たりませんでした
「よくないらしいよ」と言われて足が止まっていたなら、次の休みは安心して2社目に向かってください。神様は、あなたが何社訪ねても、怒ったりしません。



※この記事の情報は2026年9月8日時点のものです。
