「かしこみ、かしこみ……」
七五三のご祈祷でも、地鎮祭でも、初詣のお祓いでも。祝詞のなかで、この一節だけが耳に残ることがあります。
まわりの言葉はよく分からないのに、ここだけ音がくっきりする。あれ、どういう意味?
かしこみかしこみとは、恐れ多いことですが、謹んで申し上げます、という意味の祝詞の締めの言葉です。
書き方は畏み畏み・恐み恐み・恐美恐美といろいろ。でも読みも意味も、どれも同じです。
この記事では、次の4つが分かります。
- 一語ずつ分けた意味
- 読み方と漢字(畏み・恐み・恐美)
- 畏み畏み申すの使い方と例文
- 自分で唱えていい場面
神社本庁と北海道神社庁の公式ページ、辞書を突き合わせて書きました。
調べていて私が地味に驚いた、かしこみかしこみが付かない祝詞の話も入れてあります。まずは、あの一節を一語ずつ分けてみましょう。
かしこみかしこみとは?意味を一語ずつ
かしこみかしこみとは、「恐れ多いことですが、謹んで申し上げます」という意味の、祝詞の締めの言葉です。
北海道神社庁も、祓詞の大意を「恐れ畏んで(謹んで)申し上げます」と訳しています。方向は同じ。
一語ずつ分けると、もっとはっきりします。

図のとおり、「かしこみ」「かしこみ」「も」「白す」の4つです。
「かしこみ」とは?
かしこみとは、「恐れ多いので」という意味です。形容詞「かしこい」の語幹に、接尾語の「み」がついた形です。
コトバンクの精選版日本国語大辞典は、「恐ろしさに。おそれ多いので」と載せています。
つまり「賢い」ではなく、「畏れ多い」のほう。私は最初、賢いの意味だとばかり思っていて、ここで一度つまずきました。
古事記(712年)の歌謡に「加斯古美」、万葉集に「恐見(かしこみ)」という用例が残っています。1300年以上前から、同じ形で使われてきた言葉です。
つむぎ所長『かしこい』に『畏れ多い』の意味もあると知って、この言葉の見え方が変わりました
「かしこみかしこみもうまおす(も白す)」とは?
かしこみかしこみもうまおす(も白す)とは、「恐れ多いことですが、謹んで申し上げます」を、祝詞の言葉で言ったものです。
「かしこみ」を二度重ねるのは、畏まる気持ちを強めるため。同じ言葉を重ねる、昔からの言い方です。
「も」は、前の言葉を強める助詞。祓詞の原文でも「母」の字が当てられ、助詞として書かれています。
「白す(もうす)」は「申し上げる」。神様にへりくだって、言葉を述べるときの動詞です。
ちなみに、「かしこまる」「かしこみ入る」も、かしこみから生まれた言葉です。畏れ多く思って、身を慎む広がりは同じ。
でも祝詞の「かしこみかしこみ」は、決まり文句として固まった形です。「かしこまりました」を丁寧にした言い方ではありません。
かしこみかしこみの読み方と漢字(畏み・恐み・恐美)
かしこみかしこみは、畏み畏みでも恐み恐みでも恐美恐美でも、読みも意味も同じです。
| 表記 | どこで見る(読みは全部かしこみかしこみ) |
|---|---|
| 畏み畏み | 現代の解説や辞書でよく使われる表記 |
| 恐み恐み | 祝詞の解説や祝詞集で見る表記 |
| 恐美恐美 | 祓詞の原文(宣命書き)の表記 |
| 加斯古美 | 古事記に残る古い用例(万葉仮名) |
表記が割れる理由は、単純です。
「かしこみ」という音に、どの漢字を当てるかが、文献や場面ごとに違うだけ。
恐美恐美は神前式だけの字?
恐美恐美は、神前式だけの字ではありません。祓詞の原文そのものが、「恐美恐美母白須」と書いています。
「縁起のいい当て字」と説明するサイトもあります。でも「美」は、音を写した万葉仮名。縁起で選ばれた字ではありません。
祓詞の原文は、宣命書きという書き方です。意味の芯になる漢字を大きく、助詞や語尾を小さな仮名で書きます。
「恐美恐美」が大字、「母」「須」が小字。どこが本体かが、字の大きさで分かる仕組みです。
畏み畏み申すの使い方と例文
畏み畏み申すは、神様に申し上げる祝詞の締めの言葉です。
Weblioの実用日本語表現辞典も、畏みを「多く『畏み申す』の表現で用いる」と説明しています。
祝詞の結びを、北海道神社庁の読み下しで見てみましょう。
祓詞の結び:「…はらえたまい きよめたまへともうすことを きこしめせとかしこみかしこみももうす」
意味は、祓い清めてくださいと申し上げることを、お聞きくださいと、恐れ畏んで申し上げます、です。
畏み畏み申すと「かしこみかしこみももうす」は、表記が違うだけの同じ結びです。
神棚拝詞の結び:「…おいもつわざにはげましめたまいいえかどたかく みすこやかに よのためひとのためにつくさしめたまえとかしこみかしこみももうす」
北海道神社庁の訳では、務めに励み、家が栄え、家族が健康で、世のため人のために尽くせますように、と申し上げます。
人へのメールや手紙では、同じ気持ちを別の言葉に言い換えてください。場面別に並べます。
| 場面 | 使う言葉と例文 |
|---|---|
| 祝詞・ご祈祷の締め | 畏み畏み申す。祓詞と神棚拝詞は「…かしこみかしこみももうす」で終わる |
| 祝詞を紹介する文章 | 原文の「…かしこみかしこみももうす」を引用し、意味を添える |
| 人へのメール・手紙 | 「恐れ入ります」。手紙の結びなら「かしこ」 |
| 人への返事 | 「かしこまりました」 |
手紙の結びの「かしこ」も、畏み畏みと同じ「かしこい」の語幹から生まれた言葉です。
コトバンクのデジタル大辞泉には、女性が手紙の終わりに添える語で、男性の「恐惶謹言」にあたると載っています。
祝詞の締めの形を、全文で見たい人へ。
天津祝詞の全文、龍神祝詞の全文、稲荷祝詞の全文は、それぞれ別の記事に置いています。
自分で神様に向けて唱えたい人は、かしこみかしこみは自分で唱えていい?へ進んでください。
かしこみかしこみは自分で唱えていい?
かしこみかしこみを自分で唱えるなら、神社本庁が挙げる「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え」です。
かしこみかしこみは、祝詞の最後に付ける言葉。これだけを唱える言葉ではありません。
神社本庁は公式サイトで「神道では特別な唱えことばはありません」としたうえで、この4句を挙げています。
訳すと、「お祓いください、お清めください、神さまのお力により、お守りください、幸せにしてください」。
私はここを読んで、ちゃんと公式の答えがあったんだ、と少しほっとしました。
| 場面 | 唱える言葉 |
|---|---|
| 神社の拝殿 | 神社本庁の唱えことば。かしこみかしこみは入れない |
| 神棚の前 | 祓詞・神棚拝詞なら、末尾にかしこみかしこみが入る |
| ご祈祷の最中 | 唱えるのは神職。参列者は頭を下げて聞く |
| 自宅で祝詞 | 祝詞によって、入るものと入らないものがある |
神社の拝殿で唱えていい?
神社の拝殿で唱えるなら、かしこみかしこみではなく、さきほどの4句です。
かしこみかしこみだけを唱えることはありません。祝詞の最後に付く、締めの一言だからです。
神社本庁は、「吐普加美依身多女(とおかみえみため)」という唱えことばも挙げています。神拝のときに使われる言葉です。
願い事そのものの言い方は神社での願い事の言い方に、短い唱えことばの意味はたけふりはらえの意味にまとめました。
神棚の前で唱えていい?
神棚の前なら、祓詞や神棚拝詞を唱えてください。末尾の「かしこみかしこみももうす」まで、実際に唱える言葉に入っています。
北海道神社庁のQ&A「神棚にお参りするときは何と言ったらいいのですか?」が、祓詞と神棚拝詞の読み下しを示しています。
どちらも締めは「かしこみかしこみももうす」。大意は「恐れ畏んで(謹んで)申し上げます」です。
人が神様に申し上げる形の祝詞だから、と考えると筋が通ります。
神棚まわりの実務は、神棚のお供えは水だけでいい理由にまとめています。
ご祈祷の最中に唱えていい?
参列者は復唱せず、聞く側にまわります。かしこみかしこみが耳に入るのは、神職の祝詞にその言葉が入っているからです。
「唱えてはいけないのでは」という不安は、天津祝詞は唱えてはいけないのかで別に整理しています。
唱えると何かの宗教に入ることになる?
かしこみかしこみを唱えても、何かの宗教に入ることにはなりません。
特定の教団の言葉ではなく、神道の祝詞の言葉です。神社本庁も「神道では特別な唱えことばはありません」としています。
七五三やお宮参りで耳にした場面も、そのまま受け止めてください。
かしこみかしこみが付かない祝詞とは?
かしこみかしこみが付かない祝詞の代表は、大祓詞と、延喜式の祈年祭・六月晦大祓です。祓詞や神棚拝詞とは、締めの形が違います。
「恐み恐みも白すは大祓詞にもある」と書く解説もあります。でも神社本庁例文の大祓詞は、末尾が「聞こし食せと白す」。恐み恐みは入っていません。
私も最初、大祓詞にも当然入っていると思い込んでいたので、原文を見て驚きました。
| 祝詞 | 末尾の形 |
|---|---|
| 祓詞 | 「…恐美恐美母白須(かしこみかしこみももうす)」 |
| 神棚拝詞 | 「…かしこみかしこみももうす」 |
| 大祓詞(神社本庁例文) | 「…聞こし食せと白す」。かしこみかしこみは無い |
| 延喜式 祈年祭 | 「…宣る(のる)」。神の言葉を人々に宣べる形 |
| 延喜式 六月晦大祓 | 同じく「宣る」で終わる |
違いは、「白す」と「宣る」の役割です。「白す」は人が神様に申し上げる言葉、「宣る」は神様の言葉を人々に宣べる言葉です。
祓詞や神棚拝詞は、人から神様への申し上げ。だから「白す」で締まり、手前にかしこみかしこみが付きます。
延喜式の祈年祭や六月晦大祓は、神様の言葉を宣べる形。末尾は「宣る」で、かしこみかしこみは付きません。
大祓詞は、「白す」で終わっても、かしこみかしこみは付きません。「お聞きください、と申し上げます」という結び方です。
祝詞ごとに締めの形が違うので、読み比べるとちょっと楽しいです。ひふみ祝詞は危険なのかという不安も、別の記事で整理しました。
すずめの戸締まり・もののけ姫で聞いた「かしこみかしこみ」は本物?
すずめの戸締まりの「かけまくもかしこき日不見の神よ」は、新海誠監督が映画のために自分で作った言葉です。実在の祝詞の型をなぞっています。
シネマトゥデイ(2022年11月28日)のインタビューで、監督はこう話しています。
「神社であげられる祝詞というものを調べて、この映画のために自分でつくった言葉なので元ネタは特にないのです」
「かけまくもかしこき」は、実在の祝詞にもよく出る言い回しです。
宮﨑神宮の公式ブログは、「声に出して言うのも畏れ多い」という意味だと説明しています。
もののけ姫やテレビ番組で聞いた気がする、という人もいます。
型が有名だから、いろいろな作品で「聞いたことがある」が起きるんです。
つむぎ所長祝詞の型を知っていると、作品の台詞の聞こえ方が変わります。次に聞くのが楽しみです
かしこみかしこみの意味と使い方のまとめ
かしこみかしこみの意味と使い方は、この3つです。
- 意味は「恐れ多いが、謹んで申し上げます」
- 畏み・恐み・恐美は、読みも意味も同じ
- 畏み畏み申すは神様へ。人には「恐れ入ります」
自分で唱えるなら、神社本庁が挙げる「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え」です。
「かしこみ、かしこみ」と耳に入ったとき、「恐れ多いことですが」という意味だと分かっている。
それだけで、次に聞くときの印象は変わります。少なくとも私は、変わりました。





※この記事の情報は2026年10月1日時点のものです。
