株も、投資も、商売もしていない。おみくじの紙に「相場」という欄があるのを見て、自分には関係ないと目を滑らせたこと、ありませんか。私も最初はそうでした。
先に答えを言います。相場とは、値動きのあるものの売買を占う項目だ。事業そのものを見る「商い」「商売」の欄とは、別物。
ニュースで「今日の相場」と聞くときの相場と、「そういうものと相場が決まっている」と言うときの相場は、辞書のうえでも別の言葉なんです。おみくじの相場欄が指しているのは、前者のほう。この一語の二つの顔こそ、読み飛ばしたくなる正体だと思います。
この記事では、辞書と神社本庁の公式説明だけを根拠に、相場欄の文言を30語ほど訳します。
「買え」「売れ」と出た人がどう受け取ればいいかも、助言ではなく文言そのものの事実で答えます。値段としての「相場」も、短く正面から答えます。
おみくじの相場とは値動きのある売買を示す項目
相場とは、値動きのあるものの売買と、その時期を占う項目。
株や商品の値段が動くように、物事にも「今がいいとき」「待つべきとき」がある、という考え方に立っています。
相場という語が辞書に載せている三つの意味
精選版日本国語大辞典で「相場」を引くと、意味が三つ載っています。
ひとつめは、市場で取引される商品や株式、外国為替などの、そのときどきの値段。
ふたつめは、値段の動きから利益を得ようとする、投機的な取引そのもの。みっつめは、「世間一般に定まっている、だいたいの見当」。
みっつめ、「親は口うるさいものと相場が決まっている」というときの相場が、これです。
意外じゃないですか?私も辞書を引いて、へえと思いました。
デジタル大辞泉にも同じ意味が載っていて、この用例の初出は1701年の俳諧書まで遡るのだそう。
おみくじの相場欄が指しているのは、ひとつめとふたつめ。みっつめの「世間の見当」の意味では、ありません。ここを混同すると、相場欄の言葉が急に別物に見えてしまいます。
おみくじの相場欄が扱う範囲と扱わない範囲
扱うのは、値動きのあるものの売買。扱わないのは、金運全般です。
いろいろな記事に「相場イコール金運の項目」と書いてあります。でも、辞書を引いた私には、そうは読めませんでした。
神社本庁の公式ページは、おみくじから読み取れるものとして「金運や恋愛、失物、旅行、待ち人、健康など」を挙げています。
金運は、金運で独立した欄なんです。
相場・商い・金運は、それぞれ別のものを見ている。まずはこの地図だけ、持っておいてください。
相場の項目がないおみくじがある理由
相場欄がない紙を引いたことがある人へ。それは、正常です。
神社本庁が公式ページで挙げている項目に、「相場」は入っていない。項目の立て方は、社寺によってちがう。あなたの紙に無かったのは、欠けているからではなく、もともとそういう構成だから、というだけです。
おみくじの相場と商い・商売の読み分け
相場と商いを分けているのは、見ているものが「値動き」か「事業」かという一点です。
相場と商いを分けているのは値動きか事業かという線
相場=値動きのあるものを売り買いすること。
商い(商売)=品物やサービスを扱って利益を得る、事業そのもの。
同じお金の話でも、見ている対象がちがう。商い欄には、こんな文言が見られるとされています。「損なし 相当利あり」「利益たしかなり」「買うに吉 利あり」「あせらず時を待て」。似た言い回しもあるけれど、指しているのは事業の行方です。
自分が読むべき欄を決める二つの問い
自分がどちらの欄を読む人なのか。問いは、ふたつだけで決まります。
- 値動きのあるものを売り買いしているか → あてはまるなら相場欄
- 自分で仕入れて売る、あるいはサービスを提供しているか → あてはまるなら商い欄
- どちらもあてはまらないか → どちらも直接の対象ではない
両方にあてはまらなければ、相場欄も商い欄も、直接の対象ではありません。会社員で、投資もしていない。そういう人も、もちろんいるはずです。
そういう人は、この記事の後半「おみくじの相場を投資をしない人が読む方法」で、そのまま読み進めてください。それは欠落ではなく、ごく普通の結果なんです。
相場と商いの結果が食い違ったときの読み方
相場はいいのに商いは慎重、あるいはその逆。そんな紙は、普通にあります。
矛盾ではありません。見ている対象がちがうだけ。どちらが本当か、と選ぶ必要はないんです。
自分の状況にあたる欄を、先に読んでください。あてはまらない欄は、そのまま置いておいて大丈夫。「総合的に判断する」ではなく、順番の話として受け取ってもらえたらと思います。
おみくじの相場欄の文言一覧と現代語訳
ここでは、相場欄に見られるとされる文言を、辞書を出典に30語ほど、現代語訳つきで一覧にします。
おみくじの文面は、神社や寺によってちがう。文言ごとの解釈に、公式の統一見解があるわけでもない。以下は【伝承・諸説】の距離感で、一般にこう読まれてきたという整理です。
「買え」「売れ」という言葉が並んでいても、これは紙に書かれてきた言い回しの訳。売買の判断をうながすものでは、ないんです。
銘柄も、期限も、金額も、どの文言にも書かれていない。それは、このあとの「おみくじの相場で買え・売れと出たときの受け取り方」で、じっくり扱います。
| 文言 | 読み | 現代語訳 | 方向 |
|---|---|---|---|
| 大利あり | だいりあり | 大きな利益がある | 進む |
| 思い切れ 大利あり | おもいきれ だいりあり | 思い切れば大きな利益がある | 進む |
| 売れ 大利あり | うれ だいりあり | 売れば大きな利益がある | 進む |
| 買え 先で利あり | かえ さきでりあり | 買えば先で利益がある | 進む |
| 買え 今が最上 | かえ いまがさいじょう | 買うなら今がいい時期 | 進む |
| 上がる 買え | あがる かえ | 上がる、買え | 進む |
| 今こそ動かす時 | いまこそうごかすとき | 今こそ動かす時期 | 進む |
| 動かせば利あり | うごかせばりあり | 動かせば利益がある | 進む |
| 利あり | りあり | 利益がある | 進む |
| 小利あり | しょうりあり | 小さな利益がある | 進む |
| 十分ならずとも必ず利あり | じゅうぶんならずともかならずりあり | 十分でなくても必ず利益がある | 進む |
| 待てば利あり | まてばりあり | 待てば利益がある | 待つ |
| 待ちて利あり | まちてりあり | 待って利益がある | 待つ |
| 待て 日を選べ | まて ひをえらべ | 待って、日を選びなさい | 待つ |
| 売り急ぐべからず | うりいそぐべからず | 売り急いではいけない | 待つ |
| あせらず時を待て | あせらずときをまて | あせらず時を待ちなさい | 待つ |
| 急ぐな | いそぐな | 急いではいけない | 待つ |
| 見合わせ 今が大切 | みあわせ いまがたいせつ | 見合わせることが今は大切 | 控える |
| 手を出すな | てをだすな | 手を出してはいけない | 控える |
| 無理をすると大損 | むりをするとおおぞん | 無理をすると大きく損をする | 控える |
| 利なし | りなし | 利益がない | 控える |
| 大利なし | だいりなし | 大きな利益はない | 控える |
| 利あらず | りあらず | 利益がない | 控える |
| 手放せば不利 | てばなせばふり | 手放すと不利になる | 控える |
| 損あり 待つべし | そんあり まつべし | 損がある、待つのがよい | 控える |
| 利有れど身を過つ | りあれどみをあやまつ | 利益はあるが身を誤る | 控える |
| 目先を変えよ | めさきをかえよ | 目先を変えなさい | 揺れ |
| 大揺れに揺れる | おおゆれにゆれる | 大きく揺れ動く | 揺れ |
| 荒れる | あれる | 荒れる | 揺れ |
| 下がる | さがる | 下がる | 揺れ |
| 不意の動きあり | ふいのうごきあり | 不意の動きがある | 揺れ |
| 山気を出すな | やまけをだすな | 投機心を出してはいけない | 戒め |
ここから先は、方向ごとに、文言の背景をもう少し詳しく見ていきます。
進んでよいと読まれてきた相場の文言
表の「進む」に分けた11語は、動く方向を後押しする言い回しだ。「大利あり」の「利」は、辞書的には「もうけ・利益」のこと。「大」がつくと、その利益が大きい、という強調になります。
待てと読まれてきた相場の文言
「待つ」に分けた6語は、動くタイミングを先送りする言い回しだ。「売り急ぐべからず」の「べからず」は、「〜してはいけない」という禁止の言い方。急がなくていい、と伝える文言のほうが多いのが、この系統の特徴だと思います。
控えよと読まれてきた相場の文言
「控える」に分けた9語は、いちばん数が多い系統だ。「無理をすると大損」「手放せば不利」など、踏みとどまることを勧める言い回しが並びます。
揺れと変化を告げる相場の文言
「揺れ」に分けた5語は、状況そのものが安定していないことを告げる言い回しだ。いい・悪いを決めつけず、「今は変化のとき」とだけ伝えている、と読めます。
山気を出すなが辞書では投機心への戒めである理由
ここが、この記事でいちばん見せたい場所です。
「山気(やまけ)」は、ネットの解説だと「勢いだけで突き進む姿勢」「冷静さを保つ方法」のように、気分の話として書かれがちです。でも、デジタル大辞泉を引くと、ちゃんとした語義が載っています。「万一の幸運を頼んで、思い切って事をしようとする心」。
精選版日本国語大辞典も、ほぼ同じ。「投機や冒険を好む気質。万一の幸運をねらって、思いきって物事をしようとする心」。
つまり、山気が指しているのは、投機心そのもの。山師(やまし)という、山を掘り当てるような一攫千金を好む人の気質から来た言葉なんです。精神論じゃなく、辞書に載っているれっきとした語。
読みは「やまけ」「やまき」「やまっけ」とゆれますが、どれも同じ言葉。「山気を起こすな」という書かれ方をしていても、意味は同じです。
つむぎ所長気分の問題だと思って読み飛ばしていたら、辞書にちゃんと定義があって、二度見しました
表にない文言を自分で読むための三つの語彙
表に載っていない言い回しに出会っても、この三つを覚えておけば、方向を読むヒントになります。
利(り)=もうけ・利益。大利(だいり)=大きな利益。べからず=〜してはいけない。「売り急ぐべからず」なら、「売り急いではいけない」です。
おみくじの相場で買え・売れと出たときの受け取り方
「買え」「売れ」と出た文言に書かれているのは、方向の一言だけだ。銘柄も、期限も、金額も、どこにも書かれていない。
相場欄の文言に銘柄も期限も金額も書かれていないという事実
「買え 先で利あり」と書かれていても、何を買うのか、いつまでなのか、いくらなのかは、一言も書かれていません。
「相場」という言葉が、江戸時代の米相場から来ていることを思い出してみてください。
当時の紙が、現代のどの銘柄を指しているかなんて、書けるはずがない。書かれていない以上、具体的な指示にはなり得ない。これが、文言そのものの構造だ。
神社本庁が示すおみくじの位置づけ
神社本庁は公式に、こう説明しています。
「『おみくじ』は単に吉凶判断を目的として引くのではなく、その内容を今後の生活指針としていくことが何より大切」「引いた『おみくじ』を充分に読み返し、自分自身の行動に照らし合わせてみたい」。
当たり外れを測る紙としても、売買の指示書としても、案内されていません。
相場がいいのに全体が凶だったときの読み方
大吉なのに相場は控えめ。凶なのに相場は進んでよい。そういう食い違いも、普通にあります。
吉凶の順番や種類は、社寺によってちがう。神社本庁もそう説明しています。大吉・凶といった運勢全体と、相場欄とでは、見ている粒度がちがうんです。
「大吉だから相場もいいはず」「凶だから相場もだめなはず」という読み方に、文面のどこにも根拠はありません。相場欄は、相場欄として読んでください。
つむぎ所長大吉だから安心、凶だからだめ、じゃなくて、その項目に書かれている言葉のほうを先に読んでほしいんです
相場欄が気になって引き直したくなったときは?
引き直しの可否は、寺社によって答えが分かれています。
気に入る文言が出るまで引きたくなる気持ちは、相場欄では特に起こりやすいと思います。神社本庁は「引いた後は神社の境内の結び所に結んで帰る習わしもありますが、持ち帰っても差し支えありません」と説明しています。
もう一度お参りに行くなら、神社の参拝時間は何時まで?で、何時までに着けばよいか確認しておくと安心です。
おみくじの相場を投資をしない人が読む方法
値動きのあるものを持っていない人にとって、相場欄は直接の対象ではありません。それは、失敗ではないんです。
相場欄を読み飛ばしてよい場合の目安
株も、商品先物も、外国為替も、持っていない。売り買いする予定もない。それなら、相場欄はあなたの直接の対象ではありません。
「何も当てはまらない」ならそれでよし。辞書の語義が「値動きのある売買」である以上、値動きのあるものを持っていない人には、そもそも指す先がない、というだけの話です。
大きな買い物や貯め方の判断に置き換える読み方
相場欄の言葉は、「値段が動くものを、いつ手放し、いつ手に入れるか」という形をしています。具体的な金融商品名や投資の手法の話では、ありません。
この骨格の形だけを活用して、たとえば大きな買い物のタイミングを考える、という使い方です。何を買うか、いつ買うか、いくらで買うかは、あなた自身が決めることに変わりありません。
宝くじやギャンブルが相場欄の対象ではない理由
「おみくじ 相場 宝くじ」と検索する人もいるはずです。
辞書の語義は、「市場で取引される価格」「価格差から利益を得る投機的取引」。抽選の当落ではありません。相場欄は、宝くじが当たるかどうかを示す欄ではない、ということです。
金運みくじと相場欄の違い
「金運のおみくじはありますか」という問いにも、ここで答えます。
金運を主題にした専用のおみくじを頒布している神社は、実在します。新潟總鎮守 白山神社の公式サイトには、金山みくじ・黄龍みくじといった名前が並んでいます。
ただし、これは通常のおみくじの相場欄とは、別のもの。
おみくじの相場を値段の相場だと思って調べた人への答え
「相場」には値段という意味もありますが、おみくじの相場欄は値段の欄ではありません。
おみくじの初穂料を公式で確認できた金額の幅
おみくじの値段が気になって検索した人もいると思います。公式サイトで確認できた範囲を、表にまとめました。私も、種類ごとの金額の幅の大きさに驚きました。
| 神社 | 初穂料の例 |
|---|---|
| 二見興玉神社 | 紙のおみくじ100円。 御守付や恋みくじなどは各300円 |
| 新潟總鎮守 白山神社 | 恋みくじ・こどもみくじは100円。 開運みくじは200円。水みくじ・一年安鯛みくじは300円。 お結び開運みくじ・金山みくじなどは500円 |
神社によって金額も種類もちがいます。「◯円が相場」とは、言い切れません。
初穂料を相場という言葉で決めない理由
おみくじの代金は、初穂料・志納料と呼ばれる。買い物の値段とは、考え方がちがう。だから、「相場」という言葉で他社と比べる性質のものには、そもそも当てはまらないんです。
授与所でおみくじを受けるときの言い方
声のかけ方に迷う人も、いると思います。お守りを買うときの言い方は?で、授与所での言い方を扱っています。
おみくじの相場の読み方のまとめ
最後に、相場欄が指しているのは、値動きのあるものの売買。商い・金運とは、別の欄です。
「買え」「売れ」と書かれていても、銘柄も期限も金額も書かれていない。売買の指示には、なり得ない。
株も商売もしていないなら、相場欄は直接の対象ではありません。
初穂料は、神社によって決まっていて、共通の相場というものはありません。





